受験算数の低学年の要 ―― 「書き出し」とは何か

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受験算数OSでは、小学3年生の学習の中心に「書き出し」を据えています。数ある選択肢の中で、なぜ書き出しなのか。この記事では、その理由を、実際の問題を通してお話しします。

読み終えたとき、「書き出しは、ただ地道なだけの作業ではない」と感じていただけたらと思います。

まず、書き出しとは何か

書き出しとは、たとえばこういう問題です。

A+B+C=8 になる組を、すべて書き出しなさい(0は含まない)。

答えは21通りあります。高学年になれば、上手い数え方や、組み合わせの計算(7×6÷2=21)で、あっという間に求められるようになります。

でも、書き出し算数でやるのは、そういう上手い方法を使わず、愚直に21通りを書き出すことです。

後でテクニックを習えば簡単に解けるのに、なぜ今、手で書き出すのか。この一見の遠回りを、無駄と見るか、大切と見るか。そこが、書き出しという学習の評価の分かれ目になると思います。私は、大切だと考えています。その理由を、以下でお話しします。

なぜ、場合の数が最重要単元なのか

前提として、なぜ書き出し(=場合の数の下地)をそれほど重視するのかを説明させてください。

中学入試で差がつきやすいのは、いわゆる数系の問題 ―― 数の性質、規則性、場合の数です。入試問題のレベルになると、これらは細かく分けて考える意味があまりなく、ひとくくりに「数系」と見てよいように思います。生徒さんを見ていると、場合の数に強い子は、規則性も数の性質も強いからです。

数系は、難しくなるほど程よく差がつきます。だから、数系が得意な受験生は、それだけでアドバンテージを持てます。

そして数の性質や規則性は、3〜4年生のうちは、難関校の入試問題とは次元が違いすぎて、まだ本格的に取り組めません。だから、この時期に数系を鍛えるということは、実質「場合の数を頑張る」ことになります。5年生くらいまでは、中学受験で最も重要な単元は場合の数だ ―― そう考えている理由が、ここにあります。

場合の数は、「実感」がないと崩れる

場合の数は、抽象的で実感しにくい単元です。そのため、「なぜかこの計算で答えが出る」という、あやふやな感覚のまま解いてしまう子が少なくありません。書き出すべきところを計算したり、かけるべきところを足したり。そういう答案は、たいてい実感が伴っていないのです。

ここで、初歩的な問題を一つ考えてみてください。

【問題1】 男子2人と女子3人の5人が横1列に並ぶとき、男子が両端になる並び方は何通りですか。

女子3人の並び方は 3×2×1=6通り。両端の男子は左右を入れ替えられるので2通り。答えは 6×2=12通りです。

ところが、これを「6+2=8通り」としてしまう子がいます。とくに、説明のときに「女子は6通りですね。男子は2通りですね。合わせて考えると何通り?」と、わざと「合わせて」という言葉を使うと、8通りと答える子が続出します。

けれど、書き出しをしっかり練習してきた子は違います。男子をA・Bとして、「A〇〇〇B」を6個、「B〇〇〇A」を6個、頭の中に鮮明に思い描いています。だから、「合わせて」という引っかけの言葉を使われても、「6と2を、たすのではなく、6のまとまりが2つある」と正しくイメージし、12通りと答えます。

これが、書き出しでイメージを鮮明につくるということです。そして、書き出し練習をしないと身につきにくい、書き出しの効能です。

なぜ、場合の数は難しいのか

もう少しレベルを上げた問題を見てみます。

【問題2】 0, 1, 3, 5, 6, 8 の数字を使って(同じ数字は2回まで使わない)、3桁の整数をつくるとき、3の倍数は何通りできますか。

3の倍数は、各位の和が3の倍数になります(その理由は、5年生で理解し、6年生で自分の言葉で説明できるようになりたいところです)。

まず、和が3の倍数になる3つの数の組を、順序よく書き出します。すると、次の7つの組が見つかります。

  • 0, 1, 5 → 105, 150, 501, 510 の 4通り
  • 0, 1, 8 → 108, 180, 801, 810 の 4通り
  • 0, 3, 6 → 306, 360, 603, 630 の 4通り
  • 1, 3, 5 → 135, 153, 315, 351, 513, 531 の 6通り
  • 1, 3, 8 → 138, 183, 318, 381, 813, 831 の 6通り
  • 1, 5, 6 → 156, 165, 516, 561, 615, 651 の 6通り
  • 1, 6, 8 → 168, 186, 618, 681, 816, 861 の 6通り

合計36通りです。

ここで、二つのことに気づきます。一つは、組を「順序よく」書き出していること。この習慣がつくと、算数全般で、解法の質が上がります。もう一つは、0を含む組はすべて4通り、含まない組はすべて6通りになること。これに気づけば、全部は書き出さず、4通りが3組、6通りが4組で、4×3+6×4=36通りと、計算で省略できます。

さて、場合の数が難しい理由が、見えてきたでしょうか。

それは、「書き出し」と「計算」と「省略」が混在しているからです。この三つを使い分けるのが難しい。けれど、ベースは、あくまで書き出しです。ベースが書き出しにあって、上手く考えられたときにだけ、計算に置き換えたり、省略したりできる。この感覚を育てることが、何より大切なのです。

書き出しが育てる、三つの力

書き出しの練習を続けると、次のような力が育っていきます。

一つ、場合の数に強くなる

先の問題2で見たように、「書き出しがベースにあって、その代わりに計算や省略がある」という正しい感覚が、書き出しを通して身につきます。この土台があると、高学年で計算やテクニックを習ったときに、混乱しにくくなります。

二つ、整えて書く習慣が身につく

算数が苦手な子の理由の一つに、「書き方が雑」ということがあります。書き方が雑だと、考え方も雑になる。そして、雑に書く癖は、一度つくと、何度注意してもなかなか直りません。

算数は、二つのものを見比べて、和や差を求める場面が多い単元です。見比べられるように書けないと、そうした発想は出てきません。自分の書いたものを見て考えられるだけの、丁寧さが要るのです。

書き出しは、答えをたくさん書いていく学習です。走り書きのメモでは答えが出せず、最初から清書のつもりで書くことになります。だから、ほとんどの子に、丁寧に書く習慣が自然と身につきます。

三つ、実感して計算するようになる

算数のほとんどの問題は、計算で答えを出します。計算している姿を見ると、「分かって解いているんだろう」と思いがちですが、実はそうとも限りません。「いま、何を求めたの?」と聞くと、「式の答えです」と言うか、口ごもる子が多いのです。数字を、なんとなく四則演算しているだけの状態です。

たとえば、5人から2人を選ぶ方法。5×4÷2=10通りという式を、覚えている子は多いでしょう。でも、この式の意味を、自分の言葉で説明できるかどうかは、別の話です。

書き出しを練習した子は、こう書けます。

  • AB, AC, AD, AE で 4通り
  • BC, BD, BE で 3通り
  • CD, CE で 2通り
  • DE で 1通り

合わせて 4+3+2+1=10通り。これを自分の手で実感できます。書き出したことと、計算式がつながる。式で何を求めているのかを、鮮明にイメージできるようになる。その習慣をつけるのに、書き出しは最適なのです。

書き出しは、実は誰にでも効く

正直に言えば、私自身、はじめは書き出しを「難関校を目指す子向けの練習」だと思っていました。書き出し=場合の数の下地、という発想からです。

けれど、家庭教師として幅広いお子さんを見るうちに、考えが変わりました。書き出しは、場合の数の先取りという意味だけでなく、「実感する力」そのものを育てているのだと気づいたからです。

実感する力が育つと、高学年になっても、式を丸暗記する「暗記の算数」に陥りにくくなります。どんな学力のお子さんにとっても、質の高い学習につながる ―― それが、書き出しを幅広くおすすめする理由です。

3年生の時期に、なぜこれをやるのか

最後に、なぜ「3年生」という時期なのかをお話しします。

3年生の学習の目的は、目先の正解を積むことではなく、高学年で過酷さを増す受験算数に耐えられる、足腰(土台)をつくることだと考えています。

人は、本来、楽をしたい生き物です。安易に解き方を教われば、子どもは「頭を使わず、プロセスを省いて答えだけ出す」方向に流れていきます。けれど、書き出しは、自分の手と頭を動かさなければ絶対に進みません。楽ができない。だからこそ、土台づくりに向いています。

もう一つ、書き出し(場合の数)には、大きな利点があります。それは、「比と割合」のような抽象的な概念を必要としないことです。

比と割合は、子どもの発達段階から見て、5年生の夏より前に本当に理解するのは、なかなか難しい単元です。だから、それ以前に何を先取りしても、比が絡む応用が始まる5年夏に、多くの子が横一線に戻ります。

その点、場合の数には、そうした足踏みの原因になる抽象概念がありません。3年生でも、自分の手を使って、どこまでも進んでいけます。だから、3年生の貴重な時期に取り組む学習として、書き出しはとても相性がいいのです。

3年生の今のうちに、書く体力を体に染み込ませておく。それが、4年生以降の学習を支える、確かな土台になります。

書き出し算数について

受験算数OSの「書き出し算数」は、私が塾で3年生に教えていた、まさにこの書き出しの授業を、ご家庭で再現できるようにした教材です。

問題選びで大切にしたのは、「汗をかきながら、楽しく解けること」です。入試の意識がまだ薄い3年生には、何より楽しさが要ります。書き出す過程そのものの面白さや、全部書き出せたときの達成感がある問題を選んで、24回に並べました。

基準にしているのは、お子さんが解けたときに、嬉しそうな表情をするかどうか。よろしければ、まずはサンプルで、その手応えを確かめてみてください。

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