「速く解くため」ではなく、「数の感覚を育てるため」に
私は小学生のころから、算数がかなり得意な方でした。
その理由をひとつに決めることはできませんが、思い当たることはあります。
公文のAを3回、Bを3回、Cを2回(もしかしたら3回)、くり返したことです。
ただし、これを人にすすめたいかと言われると、正直、あまりすすめたくありません。
理由は単純です。
あまりにも単調で、つまらなくて、苦痛だからです。
もちろん、その単調さに耐えられる子であれば、計算力はかなり鍛えられると思います。
でも、多くの子にとっては、苦痛の方が大きくなりすぎるかもしれません。
それでも、私自身の算数の土台に、計算練習があったことは間違いありません。
だからこそ、今でも私は、かけ算の暗算はとても重要だと考えています。
2けた×1けたは、暗算でできるようにしたい
まず、2けた×1けた
これは、中学受験をするなら暗算でできるようにしておきたい計算です。
たとえば、
74×8
68×7
93×6
こういう計算を、いちいち筆算しないと不安という状態だと、算数の問題を解くときにかなり不利になります。
算数の問題では、計算そのものが目的ではありません。
条件を整理する。
図を見る。
表を書く。
比を考える。
面積を比べる。
場合を分ける。
そういう思考を進める途中で、計算が出てきます。
そのたびに計算で止まってしまうと、考える流れが切れます。
だから、2けた×1けたは暗算で処理できるようにしておきたいのです。
2けた×2けたも、できれば暗算で扱いたい
さらに言えば、2けた×2けたも暗算でできるようになると、かなり強いです。
ただし、いきなり、
74×38
86×57
93×64
のような計算を暗算しようとしても、普通は難しいです。
段階を踏んだ方がいいです。
最初は、20以下の2けた×2けた
12×13
14×16
18×15
このあたりから始めます。
慣れてきたら、30以下
24×18
27×23
29×16
さらに、50以下
42×36
48×25
37×49
ここまで正答率が高くなってきたら、いよいよ99以下の2けた×2けたに進んでいきます。
大事なのは、無理に急がないことです。
暗算力は、気合いで一気に身につくものではありません。
少しずつ、頭の中で数字を動かす力を育てていくものです。
暗算の目的は、答えを早く出すことだけではない
ここで大事なことがあります。
暗算というと、どうしても「答えを早く出す技術」だと思われがちです。
もちろん、それもあります。
でも、私が暗算を重視する一番の理由は、そこではありません。
暗算の本当の価値は、数の大きさを感じ取る力が育つことにあります。
たとえば、74×38を見たときに、
70×40=2800だから、答えはだいたい2800くらい。
74×38だから、2800より少し大きいか小さいかを考える。
38は40より2小さいから、74×40から74×2を引けばよさそう。
こういう感覚が働くようになることが大切です。
これは、単に答えを出すだけの力ではありません。
問題全体を見る力。
答えの見当をつける力。
計算ミスに気づく力。
無理のない解き方を選ぶ力。
そういう力につながっていきます。
便利な裏技は、鍛える目的とは少し違う
2けた×2けたには、いろいろな暗算法があります。
たとえば、74×38を考えてみます。
まず、7×3=21、4×8=32を計算して、2132とします。
次に、7×8=56、3×4=12を計算して、56+12=68。
この68を10倍して680。
最後に、2132+680=2812。
答えは2812です。
仕組みとしては正しいですし、慣れればかなり速く計算できます。
昔のブログでは、これを冗談半分で「タイサン暗算」と名づけました。
ただ、今あらためて考えても、このような方法は少し注意が必要です。
なぜなら、これは「答えを出す技術」としては便利ですが、数の量感を育てる練習としては弱いからです。
74×38が、だいたいどれくらいの大きさなのか。
2000台なのか、3000台なのか。
2800に近いのか、2500くらいなのか。
そういう感覚をあまり使わずに、手順だけで答えに到達できてしまいます。
もちろん、計算方法として悪いわけではありません。
ただ、算数を鍛える目的で暗算をするなら、裏技的な方法だけに頼るのはもったいないのです。
本質的な暗算は、数を分けて考える
では、74×38をどう暗算するのがよいのでしょうか。
基本は、分けて考えることです。
74×38
=74×30+74×8
まず、74×30=2220。
これは、74×3=222なので、その10倍です。
次に、74×8=592。
最後に、
2220+592=2812
と計算します。
このとき、頭の中では次のように進めます。
2220+500=2720
2720+90=2810
2810+2=2812
これで答えは2812です。
この方法は、特別な裏技ではありません。
ただ、数を分けて、順に処理しているだけです。
しかし、この「順に処理する」ことが大切です。
74×40から引く考え方もある
同じ74×38でも、別の考え方があります。
38は40より2小さいので、
74×38
=74×40-74×2
と考えます。
74×40=2960。
74×2=148。
だから、
2960-148=2812。
これでも求められます。
こちらの方が楽に感じる子もいるでしょう。
特に、38や49、59、98のように、キリのよい数に近いときは、こちらの方法が使いやすいです。
大切なのは、どちらか一つのやり方を丸暗記することではありません。
数を見て、
「30と8に分けよう」
「40から2を引こう」
「半分にした方が楽そう」
「25倍なら100倍して4で割ろう」
と考えられるようになることです。
68×15なら、どう考えるか
もうひとつ例を出します。
68×15です。
普通に考えれば、
68×10=680
68×5=340
680+340=1020
これで求められます。
でも、別の考え方もあります。
15は30の半分なので、
68×15
=68×30÷2
68×30=2040。
2040÷2=1020。
さらに、計算順を変えて、
68×15
=34×30
=1020
としてもよいです。
このように、暗算では「正しい手順を守る」ことよりも、楽になるように数を動かすことが大切です。
68×15を見たときに、すぐ筆算に行くのではなく、
「15は10+5」
「15は30の半分」
「68を半分にして34×30でもよい」
と見えるようになってほしいのです。
暗算は、あてはめのセンスにもつながる
本質的な暗算ができるようになると、単に計算が速くなるだけではありません。
わり算も速くなります。
たとえば、2812÷74を見たときに、
74×30=2220
残りは592
74×8=592
だから38
というように、かけ算の感覚からわり算を処理できます。
また、算数の難問で苦戦したときの「あてはめ」のセンスも上がります。
中学受験算数では、きれいに式を立てて終わる問題ばかりではありません。
ときには、
このくらいの数になりそう。
この数を入れると条件に合いそう。
この答えは大きすぎる。
この計算結果は少しおかしい。
という感覚が必要になります。
そのときに、数の量感がある子は強いです。
逆に、計算をすべて筆算や機械的な手順に頼っている子は、答えの違和感に気づきにくくなります。
暗算で鍛えたいのは、頭の中で数を動かす力
暗算で鍛えたいのは、単なるスピードではありません。
頭の中に数字を一時的に置いておく力。
その数字を分解する力。
大きさを見積もる力。
楽な計算に変形する力。
答えが妥当かどうかを判断する力。
こういう力です。
だから、2けた×2けたの暗算は、電卓代わりの技術として練習するのではなく、算数の土台を鍛える練習として取り入れたいのです。
たとえるなら、裏技的な暗算はオートバイのようなものです。
速く目的地には着きます。
便利です。
使える場面もあります。
でも、足腰はあまり鍛えられません。
一方で、数を分けて考える暗算は、自分の足で走るようなものです。
少し大変です。
最初は遅いです。
でも、続けているうちに確実に鍛えられます。
算数で本当に必要なのは、こちらの力です。
練習するときのポイント
2けた×2けたの暗算を練習するときは、次のことを意識するとよいです。
まず、いきなり難しい数でやらないこと。
12×14、16×15、18×17のような小さめの数から始めます。
次に、必ず概算すること。
74×38なら、
70×40=2800くらい
と先に見当をつけます。
そのうえで、実際の計算に入ります。
そして、計算方法をひとつに固定しすぎないこと。
74×30+74×8で考えてもよい。
74×40-74×2で考えてもよい。
どちらが楽かを選ぶことが、暗算の練習になります。
最後に、答えが出たあとに、見当と比べること。
2812なら、最初に考えた2800くらいと近い。
だから、おそらく大きなミスはしていない。
この確認まで含めて、暗算の練習です。
まとめ
かけ算の暗算は重要です。
ただし、それは「速く答えを出せるとかっこいいから」ではありません。
数の大きさを感じ取る力。
頭の中で数を動かす力。
楽な計算方法を選ぶ力。
答えの妥当性を判断する力。
こういう、算数の土台になる力を育てるためです。
2けた×1けたを暗算で処理できる。
2けた×2けたも、数を分けて考えられる。
キリのよい数を利用できる。
だいたいの大きさを見積もれる。
この力がある子は、算数の授業についていきやすくなります。
文章題でも、図形でも、割合でも、場合の数でも、途中の計算で止まりにくくなります。
暗算は、ただの計算練習ではありません。
算数を前に進めるための、かなり大切な基礎体力です。
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