かけ算の暗算は、なぜ重要なのか

この記事は約 12 分で読めます

「速く解くため」ではなく、「数の感覚を育てるため」に

私は小学生のころから、算数がかなり得意な方でした。

その理由をひとつに決めることはできませんが、思い当たることはあります。

公文のAを3回、Bを3回、Cを2回(もしかしたら3回)、くり返したことです。

ただし、これを人にすすめたいかと言われると、正直、あまりすすめたくありません。

理由は単純です。

あまりにも単調で、つまらなくて、苦痛だからです。

もちろん、その単調さに耐えられる子であれば、計算力はかなり鍛えられると思います。

でも、多くの子にとっては、苦痛の方が大きくなりすぎるかもしれません。

それでも、私自身の算数の土台に、計算練習があったことは間違いありません。

だからこそ、今でも私は、かけ算の暗算はとても重要だと考えています。

2けた×1けたは、暗算でできるようにしたい

まず、2けた×1けた

これは、中学受験をするなら暗算でできるようにしておきたい計算です。

たとえば、

74×8
68×7
93×6

こういう計算を、いちいち筆算しないと不安という状態だと、算数の問題を解くときにかなり不利になります。

算数の問題では、計算そのものが目的ではありません。

条件を整理する。
図を見る。
表を書く。
比を考える。
面積を比べる。
場合を分ける。

そういう思考を進める途中で、計算が出てきます。

そのたびに計算で止まってしまうと、考える流れが切れます。

だから、2けた×1けたは暗算で処理できるようにしておきたいのです。

2けた×2けたも、できれば暗算で扱いたい

さらに言えば、2けた×2けたも暗算でできるようになると、かなり強いです。

ただし、いきなり、

74×38
86×57
93×64

のような計算を暗算しようとしても、普通は難しいです。

段階を踏んだ方がいいです。

最初は、20以下の2けた×2けた

12×13
14×16
18×15

このあたりから始めます。

慣れてきたら、30以下

24×18
27×23
29×16

さらに、50以下

42×36
48×25
37×49

ここまで正答率が高くなってきたら、いよいよ99以下の2けた×2けたに進んでいきます。

大事なのは、無理に急がないことです。

暗算力は、気合いで一気に身につくものではありません。

少しずつ、頭の中で数字を動かす力を育てていくものです。

暗算の目的は、答えを早く出すことだけではない

ここで大事なことがあります。

暗算というと、どうしても「答えを早く出す技術」だと思われがちです。

もちろん、それもあります。

でも、私が暗算を重視する一番の理由は、そこではありません。

暗算の本当の価値は、数の大きさを感じ取る力が育つことにあります。

たとえば、74×38を見たときに、

70×40=2800だから、答えはだいたい2800くらい。
74×38だから、2800より少し大きいか小さいかを考える。
38は40より2小さいから、74×40から74×2を引けばよさそう。

こういう感覚が働くようになることが大切です。

これは、単に答えを出すだけの力ではありません。

問題全体を見る力。
答えの見当をつける力。
計算ミスに気づく力。
無理のない解き方を選ぶ力。

そういう力につながっていきます。

便利な裏技は、鍛える目的とは少し違う

2けた×2けたには、いろいろな暗算法があります。

たとえば、74×38を考えてみます。

まず、7×3=21、4×8=32を計算して、2132とします。

次に、7×8=56、3×4=12を計算して、56+12=68。

この68を10倍して680。

最後に、2132+680=2812。

答えは2812です。

仕組みとしては正しいですし、慣れればかなり速く計算できます。

昔のブログでは、これを冗談半分で「タイサン暗算」と名づけました。

ただ、今あらためて考えても、このような方法は少し注意が必要です。

なぜなら、これは「答えを出す技術」としては便利ですが、数の量感を育てる練習としては弱いからです。

74×38が、だいたいどれくらいの大きさなのか。
2000台なのか、3000台なのか。
2800に近いのか、2500くらいなのか。

そういう感覚をあまり使わずに、手順だけで答えに到達できてしまいます。

もちろん、計算方法として悪いわけではありません。

ただ、算数を鍛える目的で暗算をするなら、裏技的な方法だけに頼るのはもったいないのです。

本質的な暗算は、数を分けて考える

では、74×38をどう暗算するのがよいのでしょうか。

基本は、分けて考えることです。

74×38
=74×30+74×8

まず、74×30=2220。

これは、74×3=222なので、その10倍です。

次に、74×8=592。

最後に、

2220+592=2812

と計算します。

このとき、頭の中では次のように進めます。

2220+500=2720
2720+90=2810
2810+2=2812

これで答えは2812です。

この方法は、特別な裏技ではありません。

ただ、数を分けて、順に処理しているだけです。

しかし、この「順に処理する」ことが大切です。

74×40から引く考え方もある

同じ74×38でも、別の考え方があります。

38は40より2小さいので、

74×38
=74×40-74×2

と考えます。

74×40=2960。
74×2=148。

だから、

2960-148=2812。

これでも求められます。

こちらの方が楽に感じる子もいるでしょう。

特に、38や49、59、98のように、キリのよい数に近いときは、こちらの方法が使いやすいです。

大切なのは、どちらか一つのやり方を丸暗記することではありません。

数を見て、

「30と8に分けよう」
「40から2を引こう」
「半分にした方が楽そう」
「25倍なら100倍して4で割ろう」

と考えられるようになることです。

68×15なら、どう考えるか

もうひとつ例を出します。

68×15です。

普通に考えれば、

68×10=680
68×5=340
680+340=1020

これで求められます。

でも、別の考え方もあります。

15は30の半分なので、

68×15
=68×30÷2

68×30=2040。
2040÷2=1020。

さらに、計算順を変えて、

68×15
=34×30
=1020

としてもよいです。

このように、暗算では「正しい手順を守る」ことよりも、楽になるように数を動かすことが大切です。

68×15を見たときに、すぐ筆算に行くのではなく、

「15は10+5」
「15は30の半分」
「68を半分にして34×30でもよい」

と見えるようになってほしいのです。

暗算は、あてはめのセンスにもつながる

本質的な暗算ができるようになると、単に計算が速くなるだけではありません。

わり算も速くなります。

たとえば、2812÷74を見たときに、

74×30=2220
残りは592
74×8=592
だから38

というように、かけ算の感覚からわり算を処理できます。

また、算数の難問で苦戦したときの「あてはめ」のセンスも上がります。

中学受験算数では、きれいに式を立てて終わる問題ばかりではありません。

ときには、

このくらいの数になりそう。
この数を入れると条件に合いそう。
この答えは大きすぎる。
この計算結果は少しおかしい。

という感覚が必要になります。

そのときに、数の量感がある子は強いです。

逆に、計算をすべて筆算や機械的な手順に頼っている子は、答えの違和感に気づきにくくなります。

暗算で鍛えたいのは、頭の中で数を動かす力

暗算で鍛えたいのは、単なるスピードではありません。

頭の中に数字を一時的に置いておく力。
その数字を分解する力。
大きさを見積もる力。
楽な計算に変形する力。
答えが妥当かどうかを判断する力。

こういう力です。

だから、2けた×2けたの暗算は、電卓代わりの技術として練習するのではなく、算数の土台を鍛える練習として取り入れたいのです。

たとえるなら、裏技的な暗算はオートバイのようなものです。

速く目的地には着きます。
便利です。
使える場面もあります。

でも、足腰はあまり鍛えられません。

一方で、数を分けて考える暗算は、自分の足で走るようなものです。

少し大変です。
最初は遅いです。
でも、続けているうちに確実に鍛えられます。

算数で本当に必要なのは、こちらの力です。

練習するときのポイント

2けた×2けたの暗算を練習するときは、次のことを意識するとよいです。

まず、いきなり難しい数でやらないこと。

12×14、16×15、18×17のような小さめの数から始めます。

次に、必ず概算すること。

74×38なら、

70×40=2800くらい

と先に見当をつけます。

そのうえで、実際の計算に入ります。

そして、計算方法をひとつに固定しすぎないこと。

74×30+74×8で考えてもよい。
74×40-74×2で考えてもよい。

どちらが楽かを選ぶことが、暗算の練習になります。

最後に、答えが出たあとに、見当と比べること。

2812なら、最初に考えた2800くらいと近い。
だから、おそらく大きなミスはしていない。

この確認まで含めて、暗算の練習です。

まとめ

かけ算の暗算は重要です。

ただし、それは「速く答えを出せるとかっこいいから」ではありません。

数の大きさを感じ取る力。
頭の中で数を動かす力。
楽な計算方法を選ぶ力。
答えの妥当性を判断する力。

こういう、算数の土台になる力を育てるためです。

2けた×1けたを暗算で処理できる。
2けた×2けたも、数を分けて考えられる。
キリのよい数を利用できる。
だいたいの大きさを見積もれる。

この力がある子は、算数の授業についていきやすくなります。
文章題でも、図形でも、割合でも、場合の数でも、途中の計算で止まりにくくなります。

暗算は、ただの計算練習ではありません。

算数を前に進めるための、かなり大切な基礎体力です。

TOP