暗記の算数の本当の意味

「暗記の算数」「覚える算数」を肯定して、それで良いとしている人はいないと思います。

しかし、全く解き方を覚えていなければ何も解くことはできず、それで良いと思っている人もいません。

 

「解き方を覚える必要はあるけど、でも、暗記の算数や覚える算数にはなってはいけない」

とても分かりにくいというか、仮に同じ意見でも伝える言葉が異なってしまって、受け止める方は誤解するかもしれません。

今回のブログでは、その辺りを個人的見解で伝えていきたいと思っています。

 

Twitterで下の問題を見ましたので、それを題材に考えていきます。

24、72、Aの最大公約数は12、最小公倍数は360です。Aとして考えられる数をすべて求めなさい。

最大公約数や最小公倍数の逆算の問題です。

まず、これは3数だから難しいです。

2数ならばすだれ算で簡単に解けますし、公式を覚えて解く子もいると思います。

公式については、すだれ算でできることをわざわざ公式化する必要はあるの?とは個人的には思いますが、そのあたりは思想の違いだと思います。

正解不正解はありません。

 

私は、この問題をこの時期(新6年生3月)に扱うことを避けています。

大事なことを伝えても吸収できないからです。

四谷大塚偏差値70以上の子対象ならば、この問題をこの時期でも良いと思います。

最大公約数や最小公倍数を求める道具として、すだれ算(連除法)を使っていますが、私の認識では、それは小学生でもできるように簡単にした解法です。

まだ箸を使いこなせないだろうと、スプーンで食事をするような感覚です。

本来は、最大公約数や最小公倍数は、素因数分解で求めます。

素因数分解を子ども向けにしたものがすだれ算です。

 

やり方を覚えて答えを求めるだけなら、素因数分解よりもすだれ算の方が早くて簡単です。

ご飯(白米)を食べるだけなら、箸よりスプーンを使った方が早く食べられるのと一緒です。

しかし、最大公約数はすだれ算でも理由の説明を聞いて納得しやすいですが、2数の最小公倍数は理由を納得するのは難しくなり、3数以上の最小公倍数になると、理由の納得はほぼ不可能という感じになります。

対話式算数では、なんとか説明していますが、かなり難しくなっていて、今度書きかえないといけないと考えています。

 

理由を納得するためには、本来の素因数分解を利用した方がずっと簡単です(簡単というのは、すだれ算との比較でです)。

 

スカイプ指導では、★から★までを生徒さんに伝えるようにしています(対話式算数の書きかえの話はしませんが)。

素因数分解に絡めた話を新6年生のこの時期に説明してもなかなか理解してもらえない内容ではないかと思っています。

 

素因数分解に触れずに、この問題を扱っても、この問題の解き方を覚えるだけになり、発展していきません。

6年生の夏以降に扱いますと、素因数分解との繋がりが分かってくれて、応用が利くようになり、早めに解き方だけ覚えた子を一気に追いこしていきます。

 

「これを教えるなら何と関連付けて教えたいから、いつの時期に教えるのがベストか?」と考えていくのが塾や講師の仕事だと思いますが、そういうことを考えずに、テストで点数を取らせたい!しか頭にない受験関係者が多すぎのような気がします。

 

ということで、上の問題はすだれ算では難しいです。

すだれ算が難しいときは本来の姿の素因数分解に戻れば良いとなります。

解いてみます。

 

連除法を使っての最大公約数や最小公倍数の求め方はここでは省略します。

赤数字が最大公約数の12です。

Aの3つの□のうち、1つ目の□は空、2つ目の□は3を入れても空でも良い、3つ目の□は5を必ず入れる

そうしますと、Aは2×2×3×5=60か、2×2×3×3×5=180になります。

すだれ算を利用すると求めるのも難しいし、答えがいくつあるのかを判断することも難しいですが、素因数分解なら、ルールが分かっていたら、答えが2つになることが比較的簡単に分かります。

 

では、今回のブログのテーマの暗記について考えていきます。

まず、この手の最大公約数や最小公倍数の逆算の問題は、すだれ算で解きます。

これは覚えます。…①

すだれ算が厳しそうなときは、本来の素因数分解で解きます。

これも覚えます。…②

素因数分解の式を書いたら、あとは適当に解きます。

素因数分解で最大公約数や最小公倍数を求める方法は理解して覚えます。…③

適当というのは、素因数分解で最大公約数や最小公倍数を求められることを前提に、それを活用して考えていくことです。…④

 

①と②は覚えると書きましたが、覚える!と気合いを入れずに、経験したことにより次に使える状態を目指します。

③はしっかり理解して覚えます。

「①②」と「③」は異なります。

「経験したら覚えられるよ♪」とリラックスして覚えるのが①②で、「これは使えるように覚えよう!」と促すのが③です。

リラックスしてたら覚えられないと思われる方もいると思いますが、1回目はダメでも、2回目に出てきたら、たいてい覚えられます。

 

この①と②と③は暗記にあたります。

暗記といっても、とにかく答えを出すように解き方のマニュアルを覚える感覚では無く、①と②は、こういうときはこうするという流れを経験して記憶に残す感覚です。

③は公式で、理解して欲しいですが、理解できない場合は、仕方なく覚えるだけでも良いと思います。

仕方なく覚えるだけというのは、「円の面積の公式」や「分数のわり算では割る数を逆数にすること」などと同等の扱いです。

2数の最大公約数や最小公倍数の逆算は公式があると書き、公式を覚えることに否定的な意見を書きましたが、いまの③のかわりに①②で対応できるならば、①②で身につけた方が良いと思っています。

できるだけ③のように気合いを入れて覚えずに、こういうときはこうするという流れを、経験をもとに記憶に残す扱いにします。

 

まとめますと、公式に相当するものは理解はした方が良いですが、とにかく覚えることが優先です。

公式に相当しないものは、「こういうときはこうする」という流れを身につけます。

流れはリラックスしても身につきます。

むしろ、覚えようと気合いを入れると、逆に覚えられないと思います。

小学生の頭はとても良いので、大人が思う以上に自然と覚えているものです。

意味もよく分かっていないのに、プレッシャーがかかって使命感で覚えなくちゃ!とするから、空回りして覚えられないのです。

 

「覚える」には2種類あると捉えると良いと思います。

「こういうときはこうする」というのは、暗記と言えば暗記ですが、経験上知っておくことは暗記で無いと言えば暗記でありません。

これを暗記と呼ぶ人と暗記と呼ばない人で意見が異なるのではないでしょうか?

 

④の活用は、問題によって、閃きの要素が強かったり、作業の要素が強かったり、考え方が高度だったりしますが、活用から入るわけではありません。

①や②や③があって、素因数分解をして、そのあとに④の活用となります。

つまり、暗記していたことを利用した後に活用となります。

暗記→活用というのが基本的な流れです。

その暗記というのも2種類あり、できるだけ流れの方を使っていきます。

暗記云々ではなく、こういうときはどうするかの流れを身につけているかどうか、そして活用ができるか。

ここに目を向けていくことが、学習の質を高める勉強になると思います。

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