「中学受験は先行逃げ切り」
「このクラスにいないと、あの学校には受からない」
塾に通っていると、こうした言葉をよく耳にすると思います。
たしかに、そう見える場面はあります。
けれど、その見え方をそのまま作戦にしてしまうと、学力を伸ばすうえでいちばん大切なことを見失ってしまいます。
先行逃げ切りに「見える」のは、なぜか
優秀な子は、早熟で能力も高いので、早い時期から先行します。
そして、そのまま合格します。
外から見ると、先に走り出した子がそのまま逃げ切ったように見えるわけです。
でも、それは結果的にそう見えるだけです。
早く走り出したから合格したのではなく、もともと早く走り出せる特性を持った子だった、ということです。
先行逃げ切りに見えるかどうかは、子どもの特性次第なのです。
受験勉強は、先行逃げ切りのレースでも、遅れた子から落ちていく脱落ゲームでもありません。
「上位クラスを目指す」作戦の落とし穴
たとえば、ある塾で、A中学の合格者が次のようになっていたとします。
| クラス | A中学の合格状況 |
|---|---|
| 1組 | 合格率5割 |
| 2組 | 合格者3人 |
| 3組 | 合格者0人 |
A中学に行きたいご家庭なら、こう考えるのではないでしょうか。
- できれば1組に入る
- 2組なら、クラスで上位3位以内を目指す
- 3組なら、すぐにクラスを上げることを目指す
一見、筋の通った作戦です。
けれど、この作戦はうまくいきません。
「2組で上位3位以内に入る学力をつける」ためのプロセスが、どこにも確立していないからです。
この数字は、統計的にそうなっているだけです。
「2組の上位3人が合格した」という結果はあっても、「こうすれば2組の上位3人になれる」という道筋があるわけではありません。
結果の数字を、そのまま目標にしても、そこへ向かう手段にはならないのです。
そのクラスにいれば、受かるわけではない
「このクラスじゃなければ受からない」と、よく言われます。
そうかもしれません。
ただ、そのクラスにいること自体が、合格の確率を上げてくれるわけではありません。
上位のクラスに合格者が多いのは、もともと力のある子がそこに集まっているからです。
クラスに入ったから力がついた、という順番ではありません。
学力を上げる方法は、「少しの負荷」に尽きる
では、何を基準に考えればいいのか。
学力を上げる方法は、少しの負荷をかけて勉強すること。
それに尽きます。
大切なのは、いま在籍しているクラスが、お子さんにとって「少しの負荷」がかかるクラスになっているかどうかです。
「負荷がかかっていない」状態の見分け方
見分ける目安は、宿題です。
- 宿題が簡単すぎて、面白みがない
- つまらない、飽き飽きしている様子がある
- イージーミスによる間違いを除けば、ほぼ正解している
このような状態なら、負荷はかかっていません。
楽にこなせてしまう勉強では、力は伸びません。
反対に、注意してほしいことがあります。
「負荷はこんなものかな」
「これくらいが標準だろう」
「みんなも頑張っているし」
保護者がそう感じている状態が、実際には負荷がかかりすぎているケースが多い、ということです。
負荷がかかりすぎると、理解が追いつかないまま次へ進むことになり、解き方を覚えるだけの勉強になってしまいます。本人は頑張っているのに、力は思ったほど伸びません。
ちょうど良い「少しの負荷」は、多くの人が思っているより、軽いところにあります。
上のクラスへ上がることを目指すと、負荷はさらに重くなりがちです。
いまの頑張りが「標準」に見えるときほど、一度立ち止まって見直してみてください。
クラスではなく、偏差値を参考にする
志望校を考えるとき、偏差値を参考データにするのは良い方法です。
たとえば、A中学について、次のようなデータがあったとします。
| 偏差値 | A中学の合格状況 |
|---|---|
| 60以上 | ほぼ全員合格 |
| 55 | 合格率50% |
| 48 | 合格者の最低偏差値 |
このデータなら、
「60を取っていれば安心」
「48は厳しい」
「55より少し下くらいまでなら可能性がある」
と読み取れます。
いまの学力と志望校との距離を測る物差しとして、偏差値は役に立ちます。
一方で、「このクラスにいたら受かる可能性がある」という考え方はおすすめしません。
クラスを基準にした作戦には、「学力が上がる可能性の高いクラスかどうか」という視点がないからです。
「環境は揃った、あとは本人次第」は本当か
「A中学の合格者がいるクラスに上がった」
「A中学の合格者がたくさん出ている塾に入った」
だから、環境は揃った。
あとは本人次第。
そんな話を、よく耳にします。
これを、野球にたとえてみます。
日本のプロ野球で、先発で10勝ほどを挙げるエースが、メジャーリーグに挑戦したとします。
日本では立派なエースです。
けれど、メジャーではなかなか活躍できないことが多いのです。
一方で、日本でほとんど点を取られない、まさに無双していた絶対的なエースは、メジャーに行っても活躍します。
メジャーリーグという舞台に立ったから、活躍できたのではありません。
日本にいるうちに、圧倒的な力をつけていたから、メジャーでも通用したのです。
では、日本でそれほど大した成績を残していない投手が、メジャーに行ったとしたら、どうなるでしょうか。
「環境は揃った。あとは本人次第」となるでしょうか。
そうはならないはずです。
力が足りないまま高すぎるレベルに身を置けば、負荷がかかりすぎて、力を伸ばすどころではなくなってしまいます。
上位クラスも、これと同じです。
上のクラスに上がったことで、環境が揃うわけではありません。
大事なことは、クラスでも、メジャーリーグでもありません。
その人が、力をつけることです。
クラスを上げることを目標にするのではなく、いまの学習に、お子さんにとって少しの負荷がかかっているか。
そこを見てあげてください。
上のクラスは、目指すものではなく、力がついた結果として上がるものです。
学力が上がれば、偏差値も、クラスも、あとからついてきます。
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