なぜ5年生スタートでも偏差値65に届くのか?——鍵を握る『導入問題』の秘密

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1. 公式を覚えれば解ける。でも、それで身についたと言えるのか

対角線の本数を求める問題は、大手進学塾では、だいたい4年生の時期に学習します。

定評のある教材を見ると、説明の流れはおおよそ決まっています。

まず、N角形の1つの頂点からひける対角線の本数は、

N-3本

であることを確認します。

なぜなら、N個の頂点のうち、自分自身と両どなりの頂点には対角線をひけないからです。

次のような図が載っていることでしょう。

そして、頂点は全部でN個あります。

だから、すべての頂点について考えると、

(N-3)×N

となります。

ただし、このままだと同じ対角線を2回ずつ数えているので、最後に2で割ります。

つまり、N角形の対角線の本数は、

(N-3)×N÷2

となります。

この説明は、決して悪いものではありません。

算数が得意な子や、すでに図形の見方がある程度身についている子にとっては、これで十分です。

説明としても正しいですし、コンパクトでわかりやすいです。

しかし、子どもたちは、この公式をよく忘れます。

円の面積の公式のように、何度も何度も使う公式なら、自然に覚えていきます。

半径×半径×3.14
底辺×高さ÷2
直径×3.14

こうした公式は、いろいろな単元で繰り返し登場するため、覚えること自体に大きな負担はありません。

ところが、対角線の本数の公式は、それほど頻繁に出てくるわけではありません。

「一度学習して、そのときは理解した」
「問題も解けた」
「でも、しばらくすると忘れている」

これは珍しいことではありません。

では、忘れないためにはどうすればよいのでしょうか。

一般的には、「反復しましょう」と言われます。

確かに、何度も練習すれば覚えられます。

しかし、この考え方をそのまま広げていくと、勉強時間はどんどん膨らんでいきます。

中学受験算数には、覚えようと思えば覚えられる公式や解法がたくさんあります。

「そのたびに、忘れないように反復する」
「しばらくして忘れたら、また反復する」
「また別の単元で公式を覚え、また反復する」

これを続けていくと、算数の勉強はかなり苦しいものになります。

本来、公式は楽に解くためのものです。

ところが、皮肉なことに、公式を覚えようとすればするほど、覚えるものが増え、反復するものが増え、勉強時間が膨大になってしまうことがあります。

もちろん、公式を覚えることが悪いわけではありません。

大切なのは、覚えるべき公式と、覚えようとしすぎない方がよい公式を分けることです。

円の面積のように、何度も使うメジャーな公式は覚えてよいです。

というより、自然に覚えるべきです。

しかし、対角線の本数のように、出番がそれほど多くないマイナーな公式まで、すべて暗記で処理しようとすると、子どもの負担は大きくなります。

こうした公式は、丸暗記して忘れないようにするより、必要になったときに、自分でたどれるようにしておくことが大切です。

「公式を覚えているから解ける」のではなく、「公式を忘れても、考えれば戻ってこられる」

この状態をつくる方が、受験算数では強いのです。

中学生以降の数学では、公式は比較的整理されています。

重要な公式は何度も使いますし、覚えることで楽になる場面も多くあります。

しかし、中学受験算数では、少し事情が違います。

「出番の少ない公式」
「単元限定で使う考え方」
「説明されるとわかるけれど、しばらくすると忘れやすい解法」

こうしたものが多くあります。

だからこそ、すべてを暗記で乗り切ろうとするのではなく、必要なときに考え方をたどれるようにしておくことが大切です。

対角線の本数は、その典型的な例です。

2. 受験算数OSでは、まず五角形の対角線を全部ひく

受験算数OSでは、対角線の本数を学ぶとき、いきなり公式を教えるところから始めません。

最初の導入問題は、とても単純です。

五角形の対角線をすべてひきなさい。

これだけです。

この問題なら、子どもにとって負担感はほとんどありません。

「難しい公式を覚えよう」
「新しい解き方を身につけよう」

という構えではなく、まずは手を動かしてみるところから入れます。

五角形の対角線なら、実際に描いて数えることができます。

描いてみると、対角線は5本です。

ここでまず、子どもは「五角形の対角線は5本」という事実を、自分の手で確認します。

この段階では、まだ公式は出しません。

大切なのは、先に答えを教えることではなく、子どもの中に具体的な図のイメージを残すことです。

そして、図のように対角線を色分けして見せます。

赤の対角線・青の対角線・緑の対角線・紫の対角線・オレンジの対角線

このように色分けすると、ただ5本の線があるだけではなく、どの頂点からひかれた対角線なのかが見えやすくなります。

勘の良い子なら、この時点で、「色と頂点が関係しているのかな」と気づくかもしれません。

ここから、いよいよ説明に入ります。

3. 5本のはずが、10本になる

次に、五角形の5個の頂点に注目します。

それぞれの頂点から、対角線をひいてみます。

五角形では、1つの頂点から対角線を2本ひくことができます。

頂点は5個あります。

そこで、5個の頂点それぞれから対角線を2本ずつひくと、

2本 × 5個 = 10本

になります。

ところが、最初に五角形の対角線を全部ひいたとき、対角線は5本でした。

ここでズレが生まれます。

実際に描いたら5本。

各頂点から2本ずつと考えたら10本。

答えが合いません。

このズレが、とても大切です。

「なぜ違うのか」
「どこで多く数えているのか」
「何を直せば、最初に描いた5本と一致するのか」

子どもは、ここで初めて「2で割る理由」を考える準備ができます。

公式を先に教えると、

同じ対角線を2回ずつ数えているので、2で割ります。

という説明になります。

もちろん、この説明は正しいです。

しかし、子どもにとっては、「そういうものなのか」で終わってしまうことがあります。

一方で、先に自分で5本を描き、その後に10本という数え方を見せられると、子どもは違和感を持ちます。

「あれ、さっきは5本だったのに、どうして10本になるの?」
「どこかで同じものを数えているのかな?」

この違和感があるから、説明が入ってきます。

4. 「2で割る」は、教わるものではなく、納得するものになる

ここで、色分けした図が効いてきます。

たとえば、赤の頂点からひいた対角線と、緑の頂点からひいた対角線を見比べると、同じ対角線が出てきます。

赤から緑へひいた対角線。
緑から赤へひいた対角線。

線としては同じものです。

でも、「赤の頂点からひいた」と考えたときにも数え、「緑の頂点からひいた」と考えたときにも数えています。

つまり、1本の対角線を2回数えているのです。

これは言葉だけで説明されるより、図で見る方がはるかに納得しやすくなります。

「赤の対角線と緑の対角線で同じものがある」
「青の対角線とオレンジの対角線で同じものがある」
「どの対角線も、両端の2つの頂点からそれぞれ数えられている」

だから、10本をそのまま答えにしてはいけない。

2回ずつ数えているから、最後に2で割る。

ここで初めて、

10 ÷ 2 = 5本

という計算が意味を持ちます。

この「÷2」は、ただ教わったものではありません。

最初に描いた5本と、頂点ごとに数えた10本のズレから、子ども自身が納得して受け取るものになります。

ここが導入問題の価値です。

公式を覚える前に、公式が必要になる瞬間をつくる。

受験算数OSでは、この流れを大切にしています。

5. それでも、まだ公式にはしない

ここで、五角形の対角線は、1つの頂点から2本。頂点が5個。2回ずつ数えているから、2×5÷2。

という考え方は見えてきました。

しかし、受験算数OSでは、この段階ですぐに公式化して終わりにはしません。

ここでいきなり、

N角形の対角線の本数は、N×(N-3)÷2

とまとめることもできます。

でも、それではまだ、子どもにとっては少し早いのです。

五角形で納得したばかりの段階では、まだ「五角形だからできた」と感じている子もいます。

そこで、次の導入問題に進みます。

七角形の対角線の本数を求めなさい。

ここで、子どもの反応は分かれます。

「七角形なら、実際に描いて数えよう」と思う子もいます。

「さっきの仕組みを使えば、計算で求められそうだ」と思う子もいます。

ここに優劣はありません。

単に、負担感のイメージが違うだけです。

七角形でも描いて確かめたい子は、図で考えればよいのです。

一方で、五角形で見た仕組みを使って計算しようとする子は、すでに一般化への入口に立っています。

大切なのは、どちらの子も、ただ公式を暗記しているわけではないということです。

自分なりに、どうすれば求められるかを考えています。

6. 七角形で、考え方を計算につなげる

七角形では、冒頭の図で、1つの頂点から対角線を4本ひき、丁寧な言葉を添えて計算式で解説していきます。

ここで大切なのは、答えが14本になることだけではありません。

五角形で見た仕組みを使って、七角形も計算で求めようとした子は、説明を聞いたときに、

「やっぱり、この考え方でよかったんだ」

と思うかもしれません。

あるいは、

「あれ、最後に2で割るところを忘れていた」
「1つの頂点からひける本数を少し勘違いしていた」

と気づくかもしれません。

一方で、七角形の対角線を地道に全部ひいて求めた子もいます。

その子は、説明を聞いたときに、

「計算で求める方が楽だな」

と思うかもしれません。

あるいは、

「全部描いて数えるのは、七角形くらいが限界かもしれない」

と感じるかもしれません。

どちらでもよいのです。

「計算で求めた子が正しさを確認する」
「少し勘違いしていた子が修正する」
「全部描いた子が、計算の必要性を感じる」
「描いて数える大変さを実感する」

このように、自分の行動や考え方に対して、何かしらの感想を持つことが、次の学びにつながります。

どんな感想でもよいのです。

大切なのは、自分の手を動かしたあとに、何かしらの実感を持つことです。

導入問題は、ただ本題に入る前の軽い問題ではありません。

子どもに、何かを感じてもらうための問題です。

「これは大変だ」
「こうすれば楽になる」
「さっきの考え方が使える」
「でも、ここは注意しないといけない」

そういう小さな実感があるから、その後の説明がただの知識ではなくなります。

受験算数OSで導入問題を置いているのは、子どもにこうした感想を持ってもらいたいからです。

  • 公式を先に教えるのではなく、まず手を動かす
  • 自分なりに考える
  • そのあとに説明を聞く

この順番にすることで、説明は「知らないことを教わる時間」ではなく、自分の考えを確かめ、修正し、深める時間になります。

7. 公式を覚えるよりも大切なのは、戻ってこられる力

対角線の本数も学ぶときは、公式として整理してよいと思います。

ただし、受験算数OSでは、この公式を、忘れたときに戻ってこられることを重視しています。

どんなに角の多い多角形でも、とりあえず五角形か六角形を描いて、こう考えれば、求められると仕組みを見抜いてから解く力をつけることが大切です。

8. 導入問題は、思考の流れを形にしたもの

受験算数OSが導入問題を大切にしている理由は、ここにあります。

導入問題は、ただのウォーミングアップではありません。

簡単な問題を先に置いて、気分よく始めるためだけのものでもありません。

導入問題は、そのテーマで身につけてほしい思考の流れを、子どもが自分の手で体験するためのものです。

いきなり公式を教えるのではなく、まず描く。
描いて数える。
別の数え方を試す。
数が合わないことに気づく。
なぜ違うのかを考える。
重複に気づく。
だから2で割ると納得する。
その後で、七角形に広げる。
最後に公式として整理する。

この流れを通ることで、公式はただ覚えるものではなくなります。

必要になったら、自分でつくり直せるものになります。

受験算数では、すべての公式や解法を反復で覚え続けるのは大変です。

特に、出番の少ないマイナーな公式まで暗記に頼ると、勉強時間は膨らみ、算数が苦しいものになりやすくなります。

だからこそ、受験算数OSでは、覚えなくても戻ってこられるものは、戻ってこられるように学びます。

受験算数OSでは、このような導入問題を通して、いきなり解き方を覚えるのではなく、考え方の入口から学べるようにしています。

教材の全体像や学習の進め方は、こちらで紹介しています。

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