式を書くから解けない

スカイプ指導で計算式をたくさん書く生徒さんがいます。

これを見ると、良いことというか、式を書かない子と比べて、優等生と思われるかもしれません。

しかし、私の指導は、式を書くことを極力減らすように言っていますので、その指導方針通りに解いている6年生の答案用紙に見慣れていると、驚くというより、ゾッとしてしまいます。

タイトル通り、計算式が増えると、ハンディキャップが大きくなります。

 

一般的には算数は式を書いて解くものという認識ですが、私はそうでは無いと思っています。

まず、どうして式を書くかを考えてみます。

その前に「算数」という科目と「数学」という科目があって、それとは別に「受験算数」という科目があるという認識であるべきだと思っています。

 

「数学」では式を書きますが、「数学」は、証明する学問なので、証明するための共通言語である式を書くことは当然です。

式を書かなければ証明できません。

証明というのは、証明する問題だけではなく、自分がどう考えたかを示すための証拠提出でもあります。

つまり、自分が解きやすくなるために書いているものではなくて、証拠を見せるため、アリバイ作りのために義務で書いていると言っても良いと思います。

 

それに対して「受験算数」ではない普通の小学校で学習する「算数」はそもそも定義があやふやだと思います。

個人的には「数量などをイメージする力」「計算力」「数学への準備」が算数の3本柱だと思いますが、試しに学校の先生に聞いてみたら、千差万別の答えが返ってくるような気がします。

なんとなく「算数」=「ジュニア数学」と捉えていると、算数も式が大切という考えになると思います。

小学校の「算数」の話はここでは深入りしませんので「受験算数」の話に移ります。

 

「受験算数」は、「算数」にも「数学」にも属さない独立した教科になっていると思います。

そうしましたら「数学」と同じ扱い方をする必要がありません。

「受験算数」も解き方を書く欄がありますが、「数学」ではないので、厳粛に共通言語である式を必ずしも書かなくてはいけないわけではありません。

解答欄に「式」ではなく「式や考え方」と書いてあることからも、中学の数学の先生もそういう認識だと思います。

 

式が、受験算数で解きやすくなり、自分のためになるのなら書くべきですが、証拠提出のためならば、式に変わるもので有効なものを書いた方が良いというのが、私の持論です。

まず、受験算数の特徴は、難しすぎて、頭の中で考えにくいことが挙げられます。

そのために解き方を暗記する方法も1つの手ですが、難しい問題は暗記では対応できません。

覚えて解くこともできず、頭の中で考えにくいとしたら、書いて考えるしかありません。

 

この話は、平面図形以外の話になります。

平面図形は、まず頭の中でどういう解法ができるか、図形を注視し、ときには問題用紙を回転させたりして、書かずに考えます。

方針が立ったら、その方針にしたがって補助線などを引きますが、糸口を探す段階では書かないで、まずしっかり考えた方が良いという意見です。

平面図形以外の分野は何か書いて考えますが、そのときは式ではない方が考えやすいです。

式を書くことしかできなそうな問題ならば、極力、式を並べて書いて見比べます。

 

書いて考えるものとしては、主に「表」「速さの図」「容器の図」の3つです。

これくらいしか挙げられないほど、書くものの種類は少ないです。

いま挙げた3つのものは、考えるために書くものでもありますし、問題文の条件を書き記すツールにもなりますし、自分で求めたものを記録するツールにもなります。

記録するものがあれば、計算式は簡易的に書くか、計算式無しで暗算か筆算だけかで十分だと思っています。

例えば、立体図形の表面積を求めるときは、何を求めるかの項目を書きます(下の表の左側)。

例えば、底面の半径が4㎝で、母線が5㎝の円すいと高さ3㎝の円柱を、底面をぴったり合うように組み合わせた立体の表面積を求める場合を書いてみます。

底面 16円
円すい側面 20円
円柱側面 24円
合計 60円

※円とは円周率3.14を表します(数学チックに「×」を省略しています)

このくらいの問題ならば、ほとんどの子が暗算でできるはずです。

紙に一切何も書かないとなるとハードルが高くなりますが、このように、これから求める項目を先に書き、その結果だけを記録するようにしていけば、計算式で4×4×3.14+5×4×3.14+8×3.14×3などのように横に繋げて書くよりも、書く量が少なくなり、心身の負担が減ることで、注意散漫となりにくく、正解率が上がるということです。

見やすさに拘りますので、この表付近の一等地には計算式は書かないで、結果だけを記録します。

先日の指導で、これを東京の中央線に例え、計算式は新宿には書かないで、計算式や筆算などを書くとしたら吉祥寺~八王子あたりに書こうかと伝えたところ、ニュアンスがかなり伝わったような気がします。

 

問題を間違えると「式を書きなさい」という大人が多いですが、式を書くことの利点はほぼ無く、作業が増えることで、逆にミスをしやすくなります。

かといって、数字をほとんど書かなかったり、散乱させていたり、何を求めたかまるで分からないものはダメです。

その2つを比べて、計算式を書く方が良いと考えることが間違っていると思っています。

いま何を求めているのか分かるように、記録を残せる上記の3点のようなものを書くようにすると良いと思います。

 

今回の内容は、ほとんどの塾関係者は言わないことだと思います。

しかし、スカイプ指導の優秀な生徒さんや、優秀な保護者の方から、その方針の良さは認められていると思っています。

式というものは、何のために書いているかを考えますと、受験算数の解き方の最適解が見つかると思います。

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