受験算数に途中式はいらない ――算数と数学の決定的な違い
「途中式を書きなさい」
多くの保護者や先生が子どもにこう言います。
その理由は分かります。
大人自身が数学を学んできたときに、途中式を書くことの重要性を強く経験しているからです。
数学では式変形を積み重ね、論理をつなげて答えにたどり着きます。
そこでは、途中式は“相手に説明するための言語”の役割を果たします。
しかし――ここが重要です。
受験算数において途中式は、むしろ大きなハンディキャップになるのです。
途中式が生む弊害
家庭教師として多くの生徒を観察する中で、私は気づきました。
「途中式を書かせる」ことによって、次のような弊害が生じているのです。
- 作業が増えると、その分 集中力・思考力・発想力のリソースが奪われる
- 書くことに気を取られ、解き進める活力が衰える
- 無駄な作業が多くなり、ミスが増える
つまり、途中式は“安心感”のために書いているだけで、実際には子どもの思考を妨げてしまうのです。
「書かない」=「何も残さない」ではない
では、何も書かずに解けばいいのか?
もちろん違います。
途中式の代わりに最適なのが、表や図に結果を書き入れるスタイルです。
- 問題に取り組む前に、まず 解法の全体像を思い描く
- そこで途中で出てくるであろう結果を入れる 表(または図)を準備する
- 実際に解くときは、できるだけ 暗算で処理し、結果だけを表に記入する
- 暗算で難しい部分は筆算を使ってもよい。ただし「横に式を書く」のではなく、必ず表や図に結果を反映させる
こうすれば、
- 作業量が減り、集中力を保てる
- 答えまでの流れを常に把握できる
- 「求め忘れ」「余計な計算」などを防げる
といった大きなメリットが得られます。
人間は不思議なもので、難しい計算をやり終えると「やり切った感」で気が緩み、その後に本当に必要な答を求め忘れることがあります。
表にあらかじめ項目名を書いておけば、そうした“抜け”を防ぐことができるのです。
表の見本例
途中式を書かないとはどういうことかを書いてみます。
例えば、半径3㎝、高さ5㎝の円柱の表面積を求めます。
途中式を書く派
3×3×3.14×2+3×2×3.14×5 =(18+30)×3.14 =48×3.14 =150.72㎠ |
途中式を書かない派
項目 | 結果 | 式 |
---|---|---|
底面2個 | 18円 | 3 3 2 |
側面 | 30円 | 6 5 |
合計 | 48円 |
立派な表にしましたが、1段目はいりませんし、罫線もいりませんし、書いた単語は、底面2個は「て2」、側面は「そ」で十分で、合計は不要です。
式は、底面積は「半径・半径・2個分」を並べたもので、側面積は「直径・高さ」を並べたもので、間違えない自信があったら省いても良いです。
あくまでもメインは結果の方です。
「円」は3.14を先に計算しないように数学のπのかわりに円周率を表す記号です。
すっきりすることで、ストレスを感じず混乱せずに考えやすく、さらに解くスピードは速いです。
メリットしかない方法だと思いますが、いかがでしょうか。
数学と算数の決定的な違い
ここで整理しておきましょう。
- 数学
最初に式を書き、式変形を積み重ねて答を導く学問。途中式は論理の証拠であり、相手に伝えるための“言語”である。 - 算数
一つ一つの値を順番に求め、最終的な答を導く学問。証明問題がないため、途中式を並べる意味は薄い。むしろ、複雑な問題では途中式が“負担”になる。
小学校の算数では問題が易しいため、途中式を書いても弊害は目立ちません。
しかし中学受験の算数は難解な問題が多いため、途中式は子どもの力を縛る足かせになりかねないのです。
誤解しやすいポイント
「途中式を書かないと間違えるじゃないか」
そう考えて、小学校では「間違えたら必ず途中式を書かせる」という指導が多く見られます。
しかしこれは、実は間違った教育です。
途中式を書かせてミスを減らすのではなく、表や図に結果を整理する工夫を教えるべきなのです。
受験算数では、むしろ「途中式に縛られなかった子」の方がぐんと伸びることもあります。
不真面目に見える子が算数で力を発揮することがあるのは、“間違った教育”を受け入れなかったからとも言えるでしょう。
本能的に無駄と察知したとも言えるでしょう。
まとめ
- 受験算数において途中式は大きなハンディキャップになる
- 最適なのは、表や図に結果を整理する方法
- 数学と算数は別物。途中式の役割も全く違う
- 「途中式を書かない=不真面目」ではない。むしろ正しい方法を選んでいる可能性がある
算数における“正しい作法”は、大人が思っている常識と異なることがあります。
子どもの可能性を広げるためにも、「途中式を書かせる」という固定観念から、一度自由になってみてください。