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暗算の効能 ――受験算数における最大の武器
算数の学習において、「暗算」は軽視されがちです。
「筆算でしっかり書いた方が安全」と思う人も多いでしょうし、実際に基本を押さえる段階ではそれが大事です。
また、暗算でミスをすると、だから暗算はダメなんだと思いがちです。
しかし、ある程度学習が進んでくると、暗算の力は受験算数における“武器”になります。
その効能を整理してみましょう。
暗算のメリット
① 問題を解くスピードが上がる
テストは時間との勝負。
暗算を駆使できると、計算式を書かずにサッと処理できるので、解答時間が確実に短くなります。
1問につき30秒短縮できれば、試験全体で大きなアドバンテージです。
② スタミナを温存できる
筆算や計算式を書く作業は、意外と体力を使います。
1時間半のテストで100回も筆を動かすのと、70回で済むのとでは、後半の集中力に差が出ます。
暗算は「頭を使って手を休ませる」テクニックでもあるのです。
③ 作業を減らすことでミスが減る
一見、暗算は「ミスが増えそう」と思われがちですが、実際は逆効果になることもあります。
式を何度も書き写すうちに桁を間違える、符号を見落とす――これらは“作業過程”で起きるミスです。
暗算で処理すれば、その分「写し間違え」というリスクは減ります。
④ 難問に強くなる
受験算数の本質は「考えること」。
暗算を取り入れることで“手の作業”を減らし、その分、頭のリソースを「方針を考える」「工夫する」に集中できます。
作業に追われる子は、肝心なところで思考がストップしがちです。
暗算は、その“余裕”を生むのです。
⑤ 集中力が持続する
同じ1問でも、5分かけて解くのと2分で解くのとでは、疲労度が違います。
暗算を駆使してスピーディーに処理できれば、頭の回転が落ちにくく、最後まで冴えた発想を維持できます。
⑥ 練習量が増える
解くスピードが上がることで、同じ時間にこなせる問題数も増えます。
多くの問題に触れることは、算数力の底上げにつながります。
「量をこなせる=質の高い練習になる」というのも暗算の効能です。
⑦ 脳トレーニングとして効果大
たとえば2桁×2桁のかけ算を暗算でやる場合。
頭の中で部分積を保持しつつ、もう一方の計算を進めて桁をずらして合算する――これは高度なワーキングメモリを使います。
算数のためだけでなく、脳そのものの処理能力を鍛える効果があるのです。
⑧ 数のセンスが磨かれる
暗算を習慣にすると、自然と「数の大きさ」「性質」「組み合わせ方」をイメージしながら処理する癖がつきます。
これは“数感”と呼ばれる力で、受験算数の応用問題において最も重要なセンスです。
暗算のデメリットと対処法
暗算は強力な武器ですが、使い方を誤ると逆効果になることもあります。
代表的なデメリットを整理しておきましょう。
① ミスが増える
頭の中だけで処理すると、桁を飛ばしたり、符号を間違えたりすることがあります。
対処法: 同じ暗算を2回繰り返す習慣を持ちましょう。暗算はスピードが速いので、2回やってもまだ筆算より速く終わることが多いです。
② 解き方の書き方が雑になる
暗算に頼りすぎると、「どんな手順で解いたか」が紙の上に残らなくなり、後で見直したときに自分でも分からない、ということが起こります。
特に表や図を使う問題では、式を省略してしまいがちです。
対処法: 表や図を使う場面では、暗算の結果をきちんと表や図に書き込む習慣をつけること。
これで「途中の整理」と「結果の確認」を両立できます。
③ 自己流に偏りやすい
暗算が得意になると、「自分の頭の中のやり方」で突っ走ってしまい、共通の解き方を学ぶ機会を逃すこともあります。
対処法: 先生や解説が示す“型”を無視せず、「頭の中でやったけれど、公式の手順に直すとこうなる」という確認を必ず行いましょう。
④ 計算過程を説明できない
模試や入試では、途中の考え方を書くことが求められる場合があります。
暗算だけで処理すると、説明が飛んでしまい、減点につながることも。
対処法: 暗算と筆算を“使い分ける感覚”を身につけましょう。
暗算はスピードのため、筆算は証拠を残すため――と意識すると、両方がバランスよく育ちます。
👉 このようにデメリットを理解した上で練習すれば、暗算は「雑さ」や「危うさ」を乗り越えて、本当の武器になります。
まとめ ――暗算は“時短”と“思考力”の両立
暗算は、ただ「速い」だけの技ではありません。
・試験時間に余裕を作る
・集中力とスタミナを保つ
・思考の余裕を生む
・センスを磨く
こうした複合的な効能を持つ、まさに受験算数の武器です。
暗算が得意になると、テスト本番で「頭の回転が落ちない」「最後まで冷静に考えられる」という強みが出ます。
だからこそ、暗算は「算数の勉強法」というよりも、「受験生活を支える戦略」と言ってよいでしょう。