たくさんの問題を解いて、解ける問題を増やすという考え方が間違えています

塾講師時代に、保護者との会話をいろいろしていくと、たくさん問題を解いて解ける問題を増やしたいと考えている方がとても多いと思いました。

最近のスカイプ指導では、そもそも接するお客様の数が塾講師時代よりも圧倒的に少ないので、そのような印象は薄れましたが、多くの受験生の保護者は、たくさんの問題を解く必要があると思っていると思います。

もちろん、たくさんの問題を解くことは間違いではありませんが、解き方を1つ1つ身につけて経験を重ねるごとに、新しい問題を解くときに「以前解いたアレと同じだ!」と網に魚がかかったような感覚を求めるわけではありません。

それは典型題の話で、典型題は、問題を見たときに、「あっ、これはできる!」と判断して解くわけです。

典型題と非典型題を同じ感覚で接することは不可能です。

非典型題が多すぎるからです。

1つ問題を紹介いたします。

 

A~Hの8人が100m競走を8回しました。
Aは8回のうち,7回Bに勝ちました。
Bは8回のうち,7回Cに勝ちました。
Cは8回のうち,7回Dに勝ちました。
Dは8回のうち,7回Eに勝ちました。
Eは8回のうち,7回Fに勝ちました。
Fは8回のうち,7回Gに勝ちました。
Gは8回のうち,7回Hに勝ちました。
Hは8回のうち,7回Aに勝ちました。
Bが8位だったときの1位はだれでしょうか。ただし,どの回も同着(2人以上が同じ順位になること)はありませんでした。

 

抽象的というか、糸口が分かりにくい問題です。

6年生の上位の子でも歯が立たないというケースは多そうです。

これを4~5年生で扱いたいと思います。

6年生上位でも解けなさそうなので、4~5年生ならば、当然、解けません。

 

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この問題の類似問題が出たら、次は出来る!

 

これが、よくある考え方だと思いますが、そのような捉え方をするのならば、4~5年生で扱う必要はありません。

少し、具体的に考えてみます。

 

全員、勝ちまくっているので、かなり強そうです。

でも、毎回、最下位(8位)はいます。

例えば、Aは8回中、Bに7回勝ったので、かなり強い、最下位はないだろうな…

そう考えると、最下位は誰もいなくなります。

ということは、AはBに7回勝ちますが、1回負けるので、そこが最下位かと考えます。

 

ここで、算数の力がある子は答えまで行けると思いますが、この問題で、それを教えたいわけではありません。

 

なぜ、この問題が難しいか?

それは8人もいるからです。

3人では少なすぎてイメージが湧かないので、4人で練習します。

A~Dの4人が100m競走を4回しました。
Aは4回のうち,3回Bに勝ちました。
Bは4回のうち,3回Cに勝ちました。
Cは4回のうち,3回Dに勝ちました。
Dは4回のうち,3回Aに勝ちました。
Bが4位だったときの1位はだれでしょうか。ただし,どの回も同着(2人以上が同じ順位になること)はありませんでした。

このようにします。

表にまとめます。

4人の状況が全く同じなので、みんな1回は最下位になると考えます。

A B C D
1回目の順位 4
2回目の順位 4
3回目の順位 4
4回目の順位 4

 

さらに、4人の状況が全く同じなので、みんな1回は1位になり、1回は2位になり、1回は3位になるのかなと考えます。

そして、AはBに3回勝っているということは?と考えると、下のアイデアになります。

A B C D
1回目の順位 4 1
2回目の順位 3 4
3回目の順位 2 3 4
4回目の順位 1 2 4

 

これで、AもBも1位から4位を1回ずつとり、AはBに3回勝ちました。

言葉にすると「Aが最下位のときだけBは1位で、他は、Aのすぐ後にBがゴールした」となります。

これをCにもDにも適用しますと完成します。

ここまでくれば、8人バージョンでも解けると思います。

※こうやって書いていくと、3人で練習しても良いくらいのレベルだったと思います。結果論のベストの解説ではなく、ライブ感のあるベターの解説が良いと思っています。

 

この問題の人数を変えた数値替え問題や、ほとんど類似している問題を次に解けたとしても、価値がないと思います。

 

この問題で身につけたいことは次の2点です。

  1. 少ない人数で練習する
  2. 条件が同じならば、結果も同じになる

 

②は少々難しい言葉になりましたが、これは、比較的、自然に使える子が多いです。

この問題で、①を身につけて欲しいと思っています。

難しいときは、簡単な数字で練習して、仕組みを見抜くということは、算数の難問に対する姿勢には絶対に必要です。

ところが、ほとんどの子はそれをしません。

テストのときに「そんな横道にそれることはできない」という心理的な理由だと思います。

でも、その横道にそれるという行為をしないと、どうなるかというと、その問題は解けません。

 

スカイプ指導でも、出来る子には「適度な小さい数値で練習することが大切」「心理的な理由で実行しにくいけど、実行するべき」などの話をいろいろします。

問題を教えることよりも、算数論に比重を置いた指導になっています。

 

そして、やがて、生徒さんの模試などの答案用紙を拝見しまして、

私「これは何?」

生徒「小さい数字でちょっと練習してみました」

私「それは良い作戦だね」

という会話が生まれ始めますが、このような会話になる子は、全員、応用力が高まっています。

 

解ける問題を増やすのではなく、大切な考え方を身につけることが大切です。

上記の青文字は、算数のセンスが必要なので、少ない人数で練習したからといって、この問題が解けるとは限りません。

家で時間をかけて、この問題を取り組んでも、青文字のところで躓いて、理解できないかもしれません。

解説を見る見ないに関わらず「解けなければ、この問題に取り組んだことが無駄だった」と考えがちですが、まったくそうではありません。

赤文字の「少ない人数で練習することが大切」と吸収し、徐々に行動に移せるようになれば、この問題を扱う価値があったと言えます。

 

「その問題が解けるようになったか?」ではなく、「その問題から何を身につけるか?」という視点に立って、問題を取り組みましたら、時間対効果は飛躍的に上がります。

そして、算数論を伝えたいと思っている執筆者が書いた対話式の解説のスタイルが、最も、大切な考え方が身につくツールだと思います。

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