- 2025年6月3日
「わかりやすい」だけでは、一流とは言えない
私はこれまで、教材づくりにおいて常に「わかりやすさ」を第一に考えてきました。
しかし、長年指導を続けてきて確信したのは、わかりやすいだけの教材は“三流”だということです。
- 「わかりやすい」で終わってしまっては、子どもは“わかった気になった”だけで力がつかない。
- 書き方が整い、ミスなく正解できるようになって、ようやく“二流”の教材です。
- そして、力がつく問題を“自然に取り組めるように構成されている”教材こそが、一流です。
過去の教材づくりの反省点
かつて私が作成した『小4対話式算数』『小5対話式算数』は、多くの生徒を救い、評価もされました。
しかし今、冷静に見直すと、やはり限界があったと思っています。
それは、塾のカリキュラムに合わせすぎたことです。
- 「小4でこれをやるべき」
- 「小5はここから取り組む」
という学年の枠に押し込めてしまった構成になってしまったことで、個々の生徒が本当に力をつけるための“戦略的な順序”が崩れてしまいました。
“小4”“小5”というタイトルをつけてしまったことで、学年が優先され、学力に焦点を当てた教材にはなり得なかったのです。
今度こそ、「一流」の教材を
だからこそ、今回の『中学入試算数リスタート』では、一切の妥協を排しました。
- 塾のカリキュラムに合わせるのではなく、子どもが成長できる順番を優先。
- 学年で区切らず、どの学年の子でも「いま必要なこと」に取り組める構成。
- わかりやすさだけで終わらず、書き方を鍛え、思考力を養い、自力で取り組んで正解にたどり着く力がつく。
- そして、自然と「力がつく問題」に取り組む流れを作る。
教材というのは、“何を教えるか”と同じくらい、“どう取り組ませるか”が重要なのです。
『中学入試算数リスタート』は、私自身の指導人生の中で、はじめて“完全版”だと胸を張って言える教材です。
これまでの教材で救えなかった子、届かなかったご家庭にこそ、届けたい一冊です。
「速さ」は、比と割合を理解してから
「過不足算」は、比で解くのが受験戦略
「中学入試算数リスタート」では、大手塾の4年生カリキュラムで定番とされる単元でも、あえて“今はやらない”という判断をしています。その代表が《速さ》と《過不足算》と《数の性質》です。
速さの学習は、比と割合のあとにこそ意味がある
「速さ」は受験算数では非常に重要な単元ですが、本質的には“比例”の理解が前提にあります。
1個120円ならわかるのですが、100gあたり120円となると、割合の感覚が育っていないと実感しにくいです。
ところが、多くの塾では、比や割合を学ぶ前に“速さ”を扱ってしまっています。
この順序では、9割の子が“暗記”に頼ってしまいます。
- 「速さの和で割る」といった機械的な処理
- 式のパターンだけを覚える「きまりきった型」で対応
こうした覚える算数は、思考力を育てるどころか、受験後に伸び悩む原因にもなるのです。
これでは意味がないと私は考えています。
速さの学習は、「比」と「割合」のあとに回す。
すると、子どもは比例の感覚を自然に理解した上で、“本質的な理解”のもとに、速さという単元に取り組める。
だから、効率も良く、理解も深く、忘れません。
◆「過不足算」と「数の性質」──その教え方、本当に力になりますか?
■ 「過不足算」は、変なテクニックを使わなくていい
多くの塾では、過不足算を教える際に、
- 面積図
- 線分図
- あるいは、いかにも塾用に開発された“特殊な技法”
こうしたものを駆使して「とにかく解けるようにする」指導がなされています。
ですが私は、それが学力向上に結びついているとは到底思えません。
過不足算は、むしろ“方程式的”に解く方が合理的で、理解しやすいのです。
もちろん、
- つるかめ算
- 平均算
これらは“方程式的でない”解き方でこそ、思考力が育つと考えています。
しかし、過不足算に関しては、図で機械的に処理するくらいなら、比や割合を用いた“方程式的なアプローチ”の方が、はるかに本質的で負担も少ない。
そしてなにより、「他の単元と同じ視点」で整理できるのが強みです。
学力を横断的に底上げするには、バラバラの技法を覚えるのではなく、一貫性のある視点が必要です。
■ 「数の性質」は、ルールだけ覚えて何になるのか?
私が4年生で数の性質を深く扱わない理由。
それはただ一つ──意味を理解できる子が少ないからです。
具体的に言いましょう。
- 分数のかけ算は、なぜ、分母と分子をそれぞれ掛けるのか
- 分数のわり算は、なぜ、割る数の逆数をかけるのか
- 「3の倍数判定法」は、なぜ、各位の和で判断できるのか
- 小数のわり算は、なぜ、あまりの処理で「もとの小数点」に戻すのか
こうした問いに、自分の言葉で、納得のいく説明ができる小学生が、いったいどれだけいるでしょうか?
さらに、素因数分解して約数の個数を求めるテクニック。
それができて、「で、どうなるんですか?」
覚えたルールで点数を取るためだけの勉強に、いったいどんな意味があるのでしょうか。
■ 暗記の算数から、思考する算数へ
「試行錯誤して、考えて、納得して理解する」
本来、これこそが学習の王道であり、学力を支える“土台”となるものです。
にもかかわらず、
- 「覚えればいい」
- 「点が取れればいい」
- 「とにかくいま解ければいい」
そういった大人都合の指導スタイルが、いつの間にか主流になっています。
それでは、算数が“受け身の作業”になってしまいます。
だから私は、4年生で「数の性質」を本格的に扱うべきではないと考えています。
ルールの丸暗記ではなく、考える素地を育てる。
それが「中学入試算数リスタート」の基本姿勢です。
現在、比と割合の執筆中。さらに磨かれた教材に。
「比と割合」は、書籍『比と割合は書き方を変えれば簡単に解ける』『表で解く練習問題120』の骨格を引き継ぎつつ、色彩と紙幅の制限のない新構成で、大幅に読みやすく、わかりやすく改良中です。
学び方の提案:比と割合まで、週7テーマ・23週間で完了
再構成した160テーマ。
1週間に7テーマを学べば、23週間──およそ半年以内に、大手塾の4年生内容が完了します。
- 学力が高い子は、週10テーマでも問題なく進めます。
- 学力が低い子は、難しいテーマ(たとえばDレベルやEレベル)は後送りにすれば、無理なく7月までに完了します。
この「完成までの見通しの立てやすさ」も、中学入試算数リスタートの強みのひとつです。
大手塾が採れない“最適解”を、個人が採れる時代
なぜ、この合理的な作戦を、大手塾は取らないのか?
理由は明快です。収益構造の都合──それだけです。
大手塾はこういうことに気がつかないわけではなく、わかってはいるのです。
「できる子」って、本当に“能力が高い”んでしょうか?
塾業界では当たり前のように、「できる子には思考系の問題を」「できない子には基本的な1行問題を」と分けられます。
でも、それって…本当に“正しい”指導でしょうか?
私が声を大にして言いたいのは、「できる・できない」は、能力の差ではなく、成長の“タイミングの差”に過ぎないということです。
早熟な子と、あとから伸びる子
中学受験の算数では、「できる=早熟な子」「できない=発達がゆっくりな子」という構図が、まるで“能力差”であるかのように語られてしまっています。
でも、実際のところは違います。
能力ではなく、“成長の段階”が違うだけ。
- 今はまだ思考が追いつかないだけで、時間をかければ確実に伸びる子
- 今はすでに理解が早いけれど、これ以上は伸びにくい子
そんな子どもたちに、まるで“ふるいにかけるように”教材を分けるなんて、私はおかしいと思います。
「生まれた時期」で、問題のレベルが決まっていいのか?
もしお子さんが4月生まれだったら、塾の授業では「思考系の問題」を任されるかもしれません。
でも、同じ子が3月生まれだったら、別クラスで「1行問題」ばかりだったかもしれません。
そんなの、おかしいとは思いませんか?
成長のスピードは人それぞれなのに、カリキュラムの順番に“合わせ込む”ことに無理があるんです。
中学入試算数リスタートの哲学は、「内容を変えない。時期を変える」
ここが最大のポイントです。
「できる子=思考系の問題」
「できない子=1行問題」
そんな“固定観念”は、この教材では捨ててください。
リスタートでは、全員が同じ内容を学びます。
違うのは、取り組む“タイミング”だけ。
- 上位層は、4年生の時点でCレベル(思考系)にチャレンジできる
- 中位層・下位層は、5年生や6年生でCレベルに挑めばいい
この発想の転換が、学力を本質的に伸ばします。
「できない子だから簡単な問題だけでいい」と言っているうちは、学力の階段は登れません。
内容を変えて、時期を変えないのが、いまの塾。
内容を変えず、時期を変えるのが、リスタート。
どちらが正しいかは、もう明らかですよね。
成長の早い子に、深く学ぶ権利があるのではありません。
タイミングを迎えた子すべてに、“深く学ぶ権利”があるのです。
中学受験という舞台で、「覚える算数」に染まる前に、「考える算数」へ。
リスタートが、その新しい一歩を支えます。
