- 2023年1月18日
本当に“力”がつく学びとは?
「4年生から塾に通い始めたほうがいいですか?」
「今のうちにどこまで進めるべきですか?」
保護者の方からよく聞かれるこの問いに、私はこう答えます。
4年生は、“がんばる”より、“正しく積み重ねる”ことが大切です。
この時期は、保護者のサポートによって成績が一時的に伸びやすく、模試や確認テストでも好成績を出しやすい時期です。
しかし、ここで一番大切なのは——
「成績が良いかどうか」ではなく、「その学習で、学力が本当に育っているかどうか」です。
親が横に付きっきりで教えて高得点を取る。
解き方を覚えてテストで得点する。
そうした表面的な成果が、“学力がついている”と錯覚させる時期でもあるのが4年生です。
でも、それで考える力や理解する力が伴っていなければ、6年生で失速します。
見せかけの点数より、“自力で考えて解く力”をどう育てるか。
それが、4年生の学習の本当の意味です。
必ず身につけたいのは、「精度の高い計算力」
4年生で最も重視すべきは、計算力の徹底強化です。
これは3年生と基本的に変わりませんが、対象となる数値や計算の種類に少し幅が広がります。
- 「3桁×1桁」「3桁÷1桁」の暗算
- 2桁以下の10個程度の加算をテンポよく処理
- 「2桁×(30以下の2桁)」の掛け算
- 3桁以下の引き算のスピードアップ
- 最小公倍数を暗算で求める力
- 円やおうぎ形など、3.14を使った計算練習
ポイントは、「速く、正確に、考えずに処理できる計算力」
ここが不十分だと、5年生以降の応用問題で、“考える余裕”が奪われていきます。
できれば取り組みたい「地道な思考力」を育てる単元
▸ 場合の数
この単元は、「地道に考えていく力」を鍛える絶好の機会です。
テクニックを多用すると、考えなくなってしまうため、あえて手を動かして地道に求める練習に集中することが大切です。
実はこれ、“丁寧に書いて解く習慣”とも相性が良く、表の利用のしかた、答えの整理のしかたなどにも良い影響を与えます。
▸ 角度の問題
角度の問題は、“戦略を立てる力”が必要な単元です。
どこを求めて、どうつなげるか。
あらかじめ見通しを立ててから手を動かす力が育ちます。
この単元を丁寧にやっておくと、他分野の「条件整理型の問題」にも強くなります。
▸ 面積の問題(図形に慣れる+計算練習)
三角形、四角形、円、おうぎ形など、さまざまな図形の面積を求める問題を、しっかり書いて、しっかり解く。
図形に対する“慣れ”と“感覚”を育てるとともに、3.14の扱いに対する計算練習としても有効です。
能力があれば先取り学習も可能
でも、それが「合格」に直結するわけではありません。
5年生の教材を使って学ぶ子も中にはいます。
たとえば、四谷大塚で偏差値70を安定して取れるような実力がある子なら、先取りをしても十分に吸収できるでしょう。
ただし、ここで大切なのは、「誰にでも当てはまる戦略ではない」ということです。
能力の高い子は、先取りするかしないかは“戦略の違い”にすぎません。
どちらを選んでも、大きなミスさえしなければ、最終的にはトップ校に届きます。
問題は、そのレベルに達していない子が、“合格するために”という理由で、先取りを選んでしまった場合です。
この場合、理解が追いつかずに焦りが生まれ、「とりあえず覚える」「自分で考えない」勉強のクセがつき、結果的にトップ校への挑戦権そのものを失ってしまうことがあります。
一方で、能力が高くない子でも、「先取りをしない」という作戦をとり、じっくり理解を積み上げていけば、トップ校に届く可能性は十分にあります。
つまり、先取りは“攻めの戦略”ではなく、“早熟で素質や理解力が備わった子が扱える戦略”です。
それを誤って使うと、学力そのものが崩れ、挑戦の土台すらなくなってしまうのです。
「やらなきゃまずい」と焦って始めるものではありません。
やっても効果が薄いのは、「点数のための学習」
4年生の時期に、塾のテストで高得点を取ることに全力を注ぐ。
それがすべて悪いわけではありません。
ただ、そうした勉強は——
- その場の点数にはなる
- 勉強への抵抗感を減らす効果もある
- 計画的な学習習慣を身につけられるかもしれない
けれど、本質的に何を身につけているか?
それを冷静に考えると、5年生から始めても、最終的な到達ラインは変わらないというのが実感です。
見せかけの成果ではなく、「考える力」「丁寧に書く力」「粘り強さ」
それを4年生でどう育てておくかが、将来を決めます。
結論:4年生は“受験型思考”の種をまく時期
- 「やった量」より「どんな質でやったか」
- 「先取り」より「基礎の徹底」
- 「点数」より「思考と姿勢の強化」
これが4年生にとっての理想的な学び方です。
具体的に言えば——
✔ ただ問題をこなすのではなく、「なぜこうやれば解けるのか」を自分の言葉で説明できること。
これができるようになると、理解の深さと応用力が同時に育っていきます。
✔ テストで点が取れたかどうかではなく、途中過程や図や表の書き方が整っているかを重視してください。
丁寧に書いて整理する力は、5年生以降に思考を支える“土台”になります。
✔ 解けない問題を解説で「なるほど」と納得し、忘れないように何度も反復する。
一見、努力しているように見えますが、そもそもその問題が“いま解くには難しすぎる”のです。
これは、早熟な子どもの学習ペースに無理についていこうとして、自分の土台ができる前に難問に手を出してしまっている状態です。
実際、私は常々こう感じています。
「泳げない子に模範の泳ぎだけ見せて、いきなり沖に連れて行って“さあ泳げ”というようなものだ」と。
水泳であれば、まずは浅いプールでビート板を持ち、バタ足の練習から始めます。
それなのに、なぜか勉強になると、「とにかく模範解答を見て覚えろ」「泳げる人の解き方を見て真似しろ」といったスタイルがまかり通っている。
これはもはや滑稽ですらある学習塾の現場です。
本当に必要なのは、自分に合った水位で、ビート板を使いながら、自分の力で進む感覚を育てること。
それが「自力で考えて届く」問題演習の意味なのです。
ちょっと先を走っている子(その子たちが将来どうなるかもわからないはずです)のスタートダッシュに引きずられるような学び方では、本質的な力は育ちません。
大切なのは、身の丈に合った問題で、解説に頼らず、自力で考えて届く演習を重ねること。
その積み重ねこそが、後に伸びる子の“共通項”です。
中学受験は5年生からが本番。
だからこそ、4年生では、深く理解し、丁寧に思考を積み重ねる「習慣」を身につけることが、後の飛躍につながります。
